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椿
良寛の短歌  秋の歌 米子市 大原啓道
2025/03/02
広げよう応援の輪

良寛の秋の歌をくりかえし読むと、その時々に、目に留まる歌もちがってくる。今回、それを感じた短歌作品をあげてみる。

 

この季節、つまり、秋を歌う短歌には、喜びと言う感情を表す作は少ない。自然現象を対象とすれば、自ずとそうなる。現在の私達にも、響いてくるゆえんであろう。

 

 あはれさは いつはあれども葛の葉の 裏吹き返す 秋の初風(288)

 秋の野の草むら毎に おく露は 夜もすがら鳴く 虫の涙か(359)

 秋の野をわが越え来れば朝露にぬれつつ立てりをみなえしの花(370)

 

草や花の一瞬の姿の、とても細やかなところに、観察が働いている歌だ。「裏吹きかえす」とか、露を「虫の涙」に喩えたり、「ぬれつつたてり」などという言葉は、良寛さんの鋭い目がないと生まれない。何とも言えぬ哀しさを、これらの言葉は、あらわしている。

また、良寛の心音を奏でている歌には、こんな作もある。独居の絶唱だ。

 

 訪ふ人もなき山里に庵して ひとりながむる 月ぞわりなき(314)

 

先きに、良寛は、「耳の人」でもあったと、書いたが、秋の歌の最後には、こんな短歌がある。やがて来る、五合庵での厳しい冬を予感しながら、暮れゆき、去り行く秋の夜に、良寛さんの耳に聴こえてくるのは、鴨のなく声であった。

 

 あしひきの山田のくろに鳴く鴨の声 聞く時ぞ 秋はくれける(542)

 

秋の歌の中には、良寛さんが、紅葉を歌う短歌もかなりある。それでも、辞世とも言われる一句が、やはり、もみじを歌っては、白眉であろう。

 

 うらを見せ おもてを見せて 散る紅葉