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椿
玉のつゆ ~貞心尼抄~(二) 米子市 大原啓道
2025/12/14
広げよう応援の輪

 わたしが、お住まいの五合庵に、初めて訪れたときを思い出す。良寛さまは、お出かけされて、いらっしゃらなかった。会いたい一心で、行ったけれど、なぜか、ほっとしたのを覚えている。その時は、手土産にと、作ってきた小さな手まりを、御机の下に置き、文を残して帰った。一生懸命、作った手まりだった。それが出来あがったら、お目にかかろう、と心に決めていたからだ。

 良寛さまのお噂を耳にしたのは、いつのことだったろう。村の童たちと、一日中でも、手まりをついたり、隠れんぼをして、遊ばれたり、村人達にも親しまれているという。また、時には村人たちに、仏様のお話しもされるという、噂だった。

 どんな方だろう。お会いして、わたしの悩みを打ち明たり、御仏の道を、おたずねしたい。そんなことを、考えるようになった。ただ、そう思うと、なぜか、心が高ぶって来るのだった。やっと、手まりが、できあがった日は、本当に嬉しかった。良寛さまに、お会いしてもいい、仏様のお許しが出たのだ。そう勝手に思い込み、お会いできる覚悟が、出来たのだった。

 あの日から、いつの間にか、三年がたっている。もう、すっかり、親しみと、心安らかな気持ちで、良寛さまには、お会いできるようになった。わたしも、四十路を越え、良寛さまは、三年前に、古希の齢を迎えられていた。