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椿
玉のつゆ ~貞心尼抄~(三)    米子市 大原啓道
2025/12/14
広げよう応援の輪

 わたしの残した文に、良寛さまは、ご返事を下さった。一読すると、文にただようやさしさに、驚いた。その時、ふっと、一首が、浮かんできた。わたしはそれを書き送った。そうすると、また、返事を下さり、良寛さまの、お歌まで添えてあった。それを拝読した時、何と心が、ときめいたことだろう。あんなに、気持ちが高揚し、嬉しかった事は、わたしの生涯で、一度もなかったことだった。

 若き日に嫁ぎ、夫たる人に仕え、日々を暮らした。夜には、時に、女の肌の歓びはあった。でも、それは嫁のつとめだと思っていた。それゆえ、心の底からのときめきなどは、覚えなかった。なのに、なぜ今、良寛さまのお歌や、お言葉は、こんなにもわが心を、揺するのだろう。不思議でならなかった。

 わたしは、すぐ、お返しの歌を添えて、ご返事の文を差し上げた。そんな短歌の唱和を綴り、繰り返すうち、あるとき、わたしは、もう、良寛さまから、離れられない自分がいることに気がついた。わたしの一生、これからは、この方のために捧げようという思いがつのった。

 お目にかかり、直接、お声を聞き、御仏の説かれたお言葉を、拝聴しているうちに、良寛様は、本当に、仏様の生まれ変わりのお方ではないかとさえ、思うようになっている。そんな時、いただいたのが、この短歌だった。

 

  梓弓 春になりなば草の庵を とく出てきませ 逢いたきものを 良寛

 

 お歌を見て、庵の雪が恨めしくなった。速くこの雪が消えてしまえばいいと、何度も思った。冬景色の美しささえ、わが胸のときめきには勝てなかった。いけない、いけないと思いながらも、会い、焦がれる気持ちに嘘はなかった。

 春よ、とくこよと、祈った日々であった。