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椿
第2回全国短歌・俳句募集「短歌部門」入選者講評
2023/01/25
活動レポート

良寛椿の会 短歌作品  講評 大森智子先生 

ジュニアの部

第一席 隻島影が波にさらされ動いてくしぶきをあげる怪物のよう 

宮城県岩沼市立岩沼中学校     猪狩 瑞季

島ではなく、島影を見ている視点が独特です。実際に見た光景を写実的に捉えてダイナミック。波に揺れ動く島影を怪物と捉え、それがしぶきをあげると表現出来る力量は中学生とは思えず、今後の歌を期待したいと思います。

第二席 良寛様玉島見守る守り神今日も良いことありますように  

岡山県立玉島商業高等学校     成吉 実緒

良寛様を玉島の守り神ととらえて真摯な気持がよく出ています。続く下句は、心に浮かぶままを呟くような、祈りのかたちです。この上句から下句への展開が上手く出来ているのが、とても魅力的。

第二席 ギラギラと輝く日差しその中でラケットを振る十三の夏 

岡山県倉敷市立玉島西中学校    安福 瑠南

十三歳の夏が凝縮しているようです。歌のリズムを上手く使って、表現したい事を的確に言っています。何気ない三句目が入っている事で、一首がスムーズに繋がりました。結句がきりっと締まっていて、読後爽快感が残ります。

第三席 親友のぐちを聞いては僕もぐちこぼして二人笑い合いた

岡山県倉敷市立玉島西中学校     西井 庵理

こう言う何でも無い場面を切り取って歌にするのは、意外に難しいもの。それをさらさらと停滞感なく一首にして、最後「笑い合いたり」に納める技法は素晴しい。あるがままの若者の会話や笑い声が聞こえるようです。

第三席 坂越えて朝日とともに見下ろせば光り輝く玉島のまち 

岡山県立玉島商業高等学校     森本 真央

坂道を登った目の前に広がる玉島の町。しかも「朝日とともに見下ろ」すが上手い表現。神々しい玉島の町を想像します。開放的で明るくきらきらとした一首になりました。

第三席 初雪は君と初めての待ち合わせ椿の道を歩こう二人で

滋賀県立滋賀膳所高等学校     池田 玲亜

「初雪は」は、初雪の降る日、を縮めたもの。初々しい相聞歌が魅力的です。ロマンチックでありながら、感情に流されず、具体的です。椿咲く道を歩く二人の姿が見えてきます。

佳 作 部活後にきつかったねと話しながらペダルこぐ音明日へつづく   

岡山県倉敷市立玉島西中学校    佐藤 颯人

部活帰りのごく自然な会話を入れながら、「ペダルこぐ音明日へつづく」のフレーズに感心しました。結句が未来を暗示して、この時間の広がりが歌柄を大きくしていると言えます。

佳 作 良寛がてまりをついてる音がする椿の花が落ちてくる時 

山口県光市立光井小小学校     横道 玄

椿の花の落ちる音を聞いて、良寛さんのてまりをつく音を思い浮かべるのは、感覚が冴えていないと難しい。てまりをつく良寛さんを心に思っているからこそ出来た歌だと思います。

佳 作 震える手筆に墨つけ書き進む残りはたったあと一文字  

岡山県倉敷市立連島中学校     松永 菜花

緊張感が伝わって来ます。震える手での清書、ちょっとのミスも許されません。後一字だけ書けば完成。この下句の具体が一首にさらなる緊張をもたらせます。上手く書けたでしょうか。

佳 作 夏のよる真っ黒な空を眺めればひときわ目立つベガの輝き 

岡山県作陽学園高等学校      梶田 翔大

夏の星座として有名なこと座のベガ。そのあかるい輝きと真っ黒な空との対比が、くっきり目に浮かびます。星の名前、星座の名前や物語を知れば楽しく、ロマンが広がるでしょう。

佳 作 シャボン玉パンッと割れたその瞬間祖母の笑顔をふと思い出す 

岡山県倉敷市立連島中学校     大塚 理ノ愛

シャボン玉が割れた瞬間、脳内をぱっとよぎる映像が、「祖母の笑顔」と言うのがいいですね。良い関係だったのでしょう。歌は瞬間を切り取って詠むものですが、まさに一瞬を捉えて違和感がありません。

一般の部

第一席 ひさかたの雨に庵の玉椿白き蕾のふくらみ初むる 

岡山県倉敷市真備町        田辺 光子

枕詞を上手く使い、古典に通じる歌らしい作り方。叙景に徹しながら、結句でほのかな希望を感じさせる。技術を見せない技術が効いて、読み飽きない歌と言える。庵を入れることで良寛椿を思わせている。

第二席 沙羅双樹の花の白きを語りつつ生徒と読みゆく「平家物語」

岡山県倉敷市玉島       重藤 洋子

沙羅双樹と「平家物語」の関係は、誰もが知るところ。先生と生徒の関係も、しっくり和やかな感じだ。「花の白きを語りつつ」のフレーズにより、一首は深みを増す。体験に基づいた歌の強みである。

第二席 良寛の言の葉沁みる歳となり日々に見つめる「草庵雪夜」 

鳥取県米子市            大原 啓道

若い日には解らなかった良寛の思想が、歳取った身に沁みて解って来るのだと思う。最晩年の良寛の遺偈のような「草庵雪夜作」。その漢詩や書体を見ながら、生き方を鑑みているのであろうか。

第三席 もう少し生きたいと言ふ友からの最後の手紙我と生きをり 

東京都八王子市       三山 喜代

生きたかった友の願いを少しでも叶えたいと、亡くなった友の遺書を持ち続けている。自分が在る限りは友も生きているという、篤い友情に感動を覚える。長く生きてあげて欲しい。

第三席 良寛の書のゆらぎには風そよぐ様が見えくる魅力があって 

北海道札幌市        小西 美里

良寛の書は大変有名だが、真っ直ぐというよりゆらいだ作が多い。それを「風そよぐ様が見えくる」という発見が、自然に逆らわない良寛禅師の生き方にも通じ、魅力を感じているのが分かる。

第三席 花の下石碑を巡る円通寺根元の苔も愛でつつ歩む 

岡山県倉敷市玉島      木下 章恵

桜咲く円通寺は実に美しい。大方の人は花を見て巡るのだが、この作者は石碑の根元に目をやり、歳月が蓄積した美と言える苔を愛でる、豊かな感性の持ち主だ。円通寺の持つ細部の良さが詠まれている。

佳 作 千万の自生の椿実の爆ぜて西の五島に秋は来にけり   

滋賀県大津市          近江 菫花

椿で有名な五島列島。花咲く頃の美しさはいかばかりだろう。実が爆ぜて種を採るのは九月~十月らしく、風物詩になっているのだと思う。リズムがとても良く、下句に実感がこもっている。

佳 作 良寛は子どもと遊びほほ笑んだだから娘に良の名つけた 

熊本県熊本市         貴田 雄介

良寛の字から頂いた「良」の名前。いかに作者にとり身近で敬愛すべき存在であったかが分かる。言いっ放しのような結句の口語体も、回りくどくなくストレート、強い印象を残す。

佳 作 瀬戸内のひかり湛ふる海のごと良寛子らを包む眼差し 

神奈川県川崎市       久保田 聡

瀬戸内海に向いて立っている円通寺良寛像の眼差しを、「ひかり湛ふる海」とした比喩が巧みである。「子ら」は色々の子を思うが、言いたいのは良寛禅師の慈愛の心に違いない。

佳 作 姉とともに良寛しのぶ円通寺なつかしきかな暁天座禅 

岡山県倉敷市呼松      大島 美幸

夏の円通寺の恒例行事の暁天座禅。参加されたこの姉妹にとって、円通寺も良寛も格別な存在であろう。その経験は強く心に残り、二人で懐かしみ合える、これも仏縁ではなかろうか。

佳 作 りりしさに慈愛秘めたるお顔もて迎えてくれし良寛像は  

岡山県倉敷市玉島       安福 利平

円通寺にはこの歌の通りの良寛像が立っている。その前に立つと誰もが有り難い、という気持になるだろう。目にしたままを自然に詠んで、ようこそと迎えられた喜びが表れている。

 

良寛椿の会 俳句作品講評  柴田 奈美先生

ジュニアの部

第一席 夕風にうたを重ぬる芒かな    

岡山県立朝日高等学校    吉田 有希

夕風が芒原を吹き抜けている様子です。芒が美しく靡いている様子を「うたを重ぬる」と、聴覚で表現されたセンスが素晴らしい。「重ぬる」と文語を使用され、切れ字「かな」で下五を決められ、姿も整った作品です。

第二席 部活終え空いっぱいの鰯雲   

岡山県倉敷市立玉島西中学校  葛間 蓮斗

部活動を終えて、空を見上げると鰯雲が広がっています。部活を終えた後の清々しい充実感に満ちた気持ちが、「鰯雲」に託されて表現できました。「空いっぱい」という促音便(っ)を使った表現に、若者らしい躍動感が感じられます。

第二席 流行に遅れる私秋の蝶      

岡山県山陽学園高等学校    古澤 心唯

発想の新鮮さ、面白さに惹かれた作品です。数年前の洋服を着る私は流行に遅れている、と少々自虐気味。その「私」に、秋になって羽が傷んでしまった「秋の蝶」を取り合わせられた点が面白いです。

第三席 椿から雨しとしとと忘れ物    

島根県安来市立第一中学校   鷲野 紘之

先ほど降った雨が椿の花に溜められていたのでしょう。今、花の中から雫がしとしとと垂れているのです。それを「忘れ物」と表現されました。面白い発想です。

第三席 夕暮れにきんもくせいの香りかな 

岡山県高梁市立高梁小学校   田村 美琴

夕暮れ時、あたりの気温が高くなってますます金木犀の花の香りが強くするのです。「夕暮れ」という時間帯をはっきりと打ち出されたので、夕焼けの情景、夕日に照らされる金木犀の花の様子まで見えてきます。

第三席 坂道で顔をいじめる冬の風   

岡山県作陽高等学校      信田 大空

「顔をいじめる」という表現にインパクトがあります。坂道を風に向かって自転車をこいでいるのでしょうか。顔を覆うこともできず、冬の厳しい風にさらされています。それを「顔をいじめる冬のかぜ」と表現された点がユニークです。

佳 作 古椿老いてますます盛んなり   

茨城県角川ドワンゴ学園s高等学校 石井 彩音

樹齢100年くらいの古椿でしょうか。人間に用いる「老いてますます盛ん」という表現を、椿に用いた点が面白いです。

佳 作 二筋の轍を染めた落椿      

宮崎県立宮崎商業高等学校    守田 葉梨

二筋の轍の上に覆いかぶさるように椿の樹があるのでしょう。落椿が赤々と轍の上に散り敷いている様子が目に浮かびます。写生のよくできた作品です。

佳 作 夏空の暑さ忘れる青さかな    

岡山県倉敷市立玉島西中学校    三宅 捷誠

真っ青に広がる青空。その美しさに暑さを忘れられたのです。空の美しさを「暑さ忘れる」という意外な表現で表されました。

佳 作 かわいいなイチョウの布団に転がるいぬ 

岡山県高梁市立高梁小学校     渡辺 苺果

イチョウの落葉を布団に見立てられたのです。その銀杏落葉の上に転がって遊ぶ犬。なんともかわいらしい情景を、可愛らしく表現できました。

佳 作 夕暮れに赤とんぼ舞う田んぼかな 

岡山県高梁市立高梁小学校    入江 緒斗葵

夕暮れ時、田んぼの上に無数に飛ぶ赤とんぼ。赤とんぼの優美さ、繊細さを「舞う」という言葉の選択で、うまく表現されました。

 

一般の部

第一席 やがて吾もつちくれとなる落椿

神奈川県藤沢市         河本 朋広

土の上に落椿が沢山落ちています。今落ちたばかりでまだ美しいものもあり、落ちてしばらくたって、土と同化し始めているものもあります。作者は「やがて吾も」と感慨深く思われたのです。落椿と同化された境地が窺え、哲学的な作風に深く考えさせられました。

第二席 抽斗にちびた鉛筆桜桃忌 

熊本県八代市           貝田 ひでを

抽斗の中に「ちびた鉛筆」を発見し、「ああそういえば、今日は太宰治の忌日だった」と思われたのです。放蕩し、デカダンスな生活を送った太宰を連想させる「ちびた鉛筆」。取り合わせの新鮮さが際立っています。

第二席 落椿大安心をたまはれる 

新潟県新潟市        寺尾 勝子(亜真李)

落椿が大地を敷き詰めるように落ちている様子をイメージしました。作者はその落椿をじっとながめているうちに、「大安心をたまはれる」と感じたのです。落椿の世界に極楽浄土を連想されたのでしょうか。「大」「たまはれる」からは、仏さまから賜ったありがたい境地であることが窺われます。

第三席 落椿夕暮れに見る白さかな 

岡山県赤磐市        黒岩 博美

夕日に照らされると赤くなるものですが、白い落椿はその白さを際立たせているのです。切れ字を用いて、色彩美が効果的に表現できました。

第三席 存分に日を浴びてをりつるし柿

岡山県倉敷市玉島      大本 和美

つるし柿が太陽に輝いています。その様子を「存分に日を浴びて」と表現されました。吊るし柿の満足そうな心地が伝わってきます。

第三席 良寛の手毬持つ手に春の雪

岡山県倉敷市藤戸町     浮田 岩夫

円通寺に立つ手毬を持つ良寛像。その掌にはこんもりと春の雪が解け残っています。良寛様の優しさが「春の雪」の季語から伝わってきます。「手毬」は本来新年の季語ですが、季節感の強い「春の雪」を季語として鑑賞し、三席としていただきました。

佳 作 良寛の椿雀の隠れんぼ   

奈良県奈良市        堀ノ内和夫

良寛椿の葉の間に雀が2,3羽いるのが見えます。隠れんぼをしているのか、と作者は直感されたのですね。童心を表現されたもので、良寛椿に相応しい作品です。

佳 作 ふっくらと良寛堂のお茶の花   

岡山県倉敷市玉島      大本 咲

良寛堂の傍にお茶の花が咲いています。上五の「ふっくらと」がお茶の花の様子を端的にあらわされ、良寛様のイメージにもぴったりです。

佳 作 行き先は足にまかせて野菊晴                  

大阪府東大阪市       永川 都子

目的地を定めないで、真っ青な秋空のもと、野菊の咲く地道を散歩されている様子が目に浮かびます。「行き先は足にまかせて」という措辞に自由気ままな感じが良く表現されて、気持ちのよい作品です。

佳 作 春うらら紅のかすかに吉祥天      

愛知県名古屋市       河井 功夫

麗かな春の日、吉祥天様の祀られているお寺を参拝されたのです。吉祥天様の仏像の色は大方は剥落していますが、紅色だけはかすかに残っていました。その紅色に着目されたのです。季語の「春うらら」が効果的です。

佳 作 あぢさゐや雨の明るさひろげをり    

岡山県小田郡矢掛町     高月 凱美

漢字が「雨」と「明るさ」のみで印象的です。表記文字の選択が効果的です。「雨」と言えば陰鬱なイメージを持ちがちですが、「あぢさゐ」によって、明るさを広げる世界となりました。発想の新鮮さが魅力的です。