お知らせ
椿
第3回 全国短歌・俳句募集 入選者講評
2024/02/17
活動レポート

入選者 短歌講評  龍短歌会 大森 智子 先生

ジュニアの部

第1席 木星に背中押されてペダルこぐ円の体積思い出しながら

倉敷市立玉島西中学校    横畑 凛空

輝く木星が秋には一晩中良く見える。その木星を背にして自転車で帰っている。背中押されてに、木星への関心の深さがうかがえ、さらに円の体積を考えるのが、中学生ならではの発想。球体として木星を捉える新鮮さが、帰宅の歌から理数の世界へと、歌柄を大きくした

第2席  親友に別れを告げて転学す淋しい空白埋まるのはいつ

倉敷市立連島中学校     北角 優香

単なる友ではなく、親友と別れるのは何より辛かろう。転学の淋しさを歌に託して、心の空白が埋まるのはいつ、と一人心に問いかけていて、大丈夫と背中を押したくなる。しかも歌はきちんと定型で、無駄な言葉がなく、一首の背後の感情まで伝えられている。

第2席  三年間で十五冊書いた「バレー」ノート涙のあとにもわたしが見えて

倉敷市市立玉島西中学校   小坂亞子

三年間で十五冊とは凄い。バレーの練習や試合の細々を綴ったものと思われる。何より下句に読者はグッとくる。嬉し涙悔し涙等を思い出しながら、その時々の気持を表すのに、下句の言葉はよく練られている。真面目で感性・感受性に富んだ作者像が浮かぶ。

第3席  昼休み弁当開けると思い出すキッチンに立つ母の姿を

作陽学園高等学校      徳山 葵

こうして歌に詠まれるお母さんはお弁当の作り甲斐があるというもの。お母さんへの感謝の気持を、言葉であれこれ表現するとありきたりになるが、お弁当を食べるシーンを、軽いタッチで描写する事により清々しくて、読後感の良い歌になった。

第3席  ペーロンを「えっさほいさ」とこぎながら三十人の心が近づく

倉敷市立玉島西中学校    西野 悠馬

修学旅行で長崎に行き、三十人ごとで、ペーロン(中国由来の船競漕)を争ったのだ。元気良い掛け声に合わせペーロンを漕いだ時、クラス全員の心が近づく、という下句にとても感動した。力を合わせるのみではなく、心を合わせるのが大事と伝えている。

第3席 月照らす池に浮かんだ蓮の葉にきらきら光る雨のしずくよ

岡山県立玉島商業高等学校  武藤 花帆

ジュニアの部には珍しく写実の歌。対象をしっかり見ないと作れない。これは細かいところをちゃんと見て、丁寧に作られていて、時間、場所、場面の取り合わせも良い。短歌は自然を詠むのが本命。自然詠に派手さはないが、いつ読んでも動じない確かさがある。

 

一般の部

第1席  有志らの願い届いて復活の良寛椿咲く春を待つ

岡山県倉敷市      貫井 照子

「良寛椿の会」へのエールのような歌。懸命の努力が実り良寛椿は勢いを取り戻している。椿の季語は春。四句までの内容から、結句「咲く春を待つ」への転換が、歌意を明るく広げている。椿が実を結び、次代へ継続してゆくことを暗示しているようだ。

第2席  気仙沼亀山に咲く椿群見下ろす船の大漁願う

青森県青森市      近藤 崇

気仙沼の亀山は椿で有名な所とある。その群生の椿を擬人化し、大漁を願って

いる。それは又、作者の願いでもある。気仙沼と言えば大震災で大きな被害を被ったが、それに負けずに椿は育ち、船が出漁しているのが何より喜ばしい。

大漁を心より願う。

第2席  朝焼けに夕焼けに見る空の色故郷に咲く椿思ほゆ

島根県松江市         宮本 朝陽香

朝焼けと夕焼けを並列にして繰り返し、大きな景から最後ズームを絞り、椿に焦点を当てる詠法と言える。しかも無理がなく自然な流れで、景の描写から椿への思いへと繋ぐ。事々しさのないシンプルな一首であるが、歌というものの良さを味わう事ができる。

第3席 幾度も良寛汲みし古井戸は時のしみ出る石積み造り

岡山県倉敷市          安福利平

いわゆる良寛井戸と言われる古い石の井戸、あまりとりあげられない井戸に目を付けたのはさすが。「時のしみ出る」と詠む洞察力に感銘を受けた。長い時の経過を溜めている井戸の石の、枯れた味わいは深い。水を汲む良寛像を思いつつ触れてみた。

第3席 風呂場からダッシュの子等をひざまづきタオルで受け止め

ゆっくりと抱く 

三重県桑名市           小林寛久

幼い子の入浴後や、お母さんがタオルを手に

待ち構えている様子が見えてくる。「ひざまづき」の一語で、子供の目線に合わせる優しさが見えるし、リアリティーが増す。「ゆっくりと拭く」ではなく「抱く」との違いは明らかで、愛しむさまが溢れている。

第3席 良寛の世界が闇に溶けていた寒月迫る円通寺かな

岐阜県岐阜市          田中恭司

夜の円通寺を「良寛の世界が闇に溶けていた」と表現する感性は鋭い。しかも寒月が低くかかっている様を「迫る」とはなかなか言えない。この一首、調子が張っていて、良寛の漢詩の世界を歌に再現した感がある。改めて良寛の世界を考えさせられた。

 

特別賞 緊張感だたよう中で指揮棒がおろされ私がピアノ弾き出す

倉敷市立玉島西中学校      黒川 陽央

特別賞 仲間との試合合間に食べるごはん悔しさ消える次頑張ろう

倉敷市立連島中学校     有本 早希

特別賞 愛してる夢の中では言えるのに君に言えないあの日の初恋

作陽学園高校 有森健太

特別賞 円通寺ボランティアで行き落ち葉拾い座禅を組んで心清まり

岡山県立玉島商業高校    加賀 早蔵

特別賞 冬景色飾りのない木枯れてる木真の姿をさらけ出せ

大阪府立枚方市立小倉小学校 松葉 亮汰郎

 

俳句の部 講評   「銀化」同人   柴田 奈美 先生

ジュニアの部

第1席 白椿朝九時の手にココアかな 

岡山県立岡山朝日高等学校    末 廣 陽 奈

寒い朝にココアのカップを手に、庭の白椿を眺めているのでしょう。寒い朝には「白椿」の白が似合います。「朝九時の手に」という、緊密な表現に工夫が感じられます。あたたかな茶色のココアと、庭の寒さの中に凛と咲く白椿のコントラストが素晴らしい。

第2席 秋蝶や人工芝の増えてをり

岡山県立岡山朝日高等学校   那 須 颯 太

人工芝の上を秋の蝶が飛び回っています。先日見た時よりも、人工芝の面積が増えていることに気付いたのです。どんどん人工的なモノが増えてゆくという不安感が感じられます。いつまでも枯れない人工芝の上を自然の生き物の秋の蝶・・もうすぐ冬がきて死んでしまう運命の生き物・・がひらひらと飛んでいるのです。この対比に深く考えさせられる作品です。

第2席 柔道着冬場に干せば凍りつく

作陽学園高等学校       高 橋  翔

生活感のある写生の力の感じられる作品です。「柔道着」なので、そのごわごわした手触りまで伝わってきます。柔道着を来て、冬の寒さの中で鍛錬されていることも「凍りつく」から連想できます。「干せば凍りつく」という口語表現に力強さも感じられます。

第3席 炎天下たちっぱなしのミーティング

作陽学園高等学校       神 出 陵太朗

部活動の大変さを、実感を込めて客観的に表現できました。部活動の後に、炎天下で、しかも立ったままで聞くミーティング。その苦しさが季語の「炎天」を用いることで、端的に表現できました。効果的な季語の選び方です。また、「たちっぱなし」という口語表現に、どこか投げやりな、腹立たしい思いまで連想できそうです。

第3席 晶子忌にほどき髪蒸されて馨る

大阪府立咲くやこの花高等学校 林   愛  海

「晶子忌」という珍しい季語を使われました。与謝野晶子の忌日は、五月二十九日で、季節は夏です。晶子と言えば、処女歌集の『みだれ髪』がすぐに連想できます。現実の髪は解かれ、暑い季節のため汗に蒸されて馨っているのです。現実の世界と晶子の世界が、季語によってうまく重なりました。

第3席 マスク越し表面上はいい関係

作陽学園高等学校       山 下 修 吾

現代社会を風刺しているような作品です。コロナ禍もあり、マスクをするのが当たり前の毎日ですが、季語としての「マスク」は冬を表します。表情を半分隠してしまうマスクは、心も隠しているような気分になります。本音を言わずに、トラブルを避けようとする現代人の生きざまを表現されました。心の屈折の感じられる作品です。

 

一般の部

第1席 散る紅葉残る紅葉にある覚悟

岡山県岡山市               岩 崎 政 弘

散ってゆく紅葉、残る紅葉。それぞれに「覚悟」を見出されたのです。

「覚悟」という精神性の深い言葉を、名詞止で使われたために、味わい深い余韻が生まれました。「散る紅葉」「残る紅葉」という対語的表現、「紅葉」の繰り返しに心地よいリズムも生まれました。

第2席 守る物在りて輝き椿の実

山口県下松市              中 川 房 子

椿の丸みのある艶やかな実をご覧になって、「守る物」を中に蔵している、直感されたのです。実の中には、土に還せば根を生やし、発芽を促す養分がいっぱいに蔵されています。固い表面の裡には確かに「守る物」が詰まっているのです。「輝き」には命の輝きが感じられます。

第2席 咲きそろふ愛語のごとき椿かな

新潟県新潟市             寺 尾  勝 子

椿の花が美しく咲きそろっているのです。その様子を「愛語のごとき」と直感されました。「愛語」とはここでは道元の『正法眼蔵』中の「愛語」を示しておられるのでしょう。「愛語というのは、人々に対して慈しみ愛する心をおこし、愛情に満ちたことばを語ること」と道元は述べました。良寛様は最晩年に、この道元の言葉を忠実に書き写しており、新潟県の木村家に残っています。その事実を踏まえられ、効果的に表現されました。

第3席  良寛の鉄鉢に降る木の実かな

広島県三原市             石 川 美 行

良寛像の鉄鉢に木の実が降り入り、明るい音が響きます。視覚だけではなく

覚にも訴える作品です。「木の実」は子どもの玩具にもなるものなので、子ども好きであった良寛様にふさわしい素材だと思いました。視覚と聴覚、鉄鉢という修行の道具と玩具ともなる木の実の取り合わせに工夫が感じられました。

第3席 刀身の波紋の揺らぎ秋の水

愛知県名古屋市            河 井 功 夫

博物館で刀を鑑賞されているのでしょう。その刀身に美しい波紋の揺らぎを発見されました。刀身には白い波のような文様の刃紋が表れます。それを波紋と詠まれ、その連想から季語の「秋の水」を選ばれたのでしょう。刀剣のはっと目を見張るような、気の引き締まる美しさと、季語の「秋の水」の取り合わせの妙に心を奪われます。

第3席 良寛の影に遊ぶか秋の蝶

広島県福山市              井 出 京 子

良寛様の像の下に、大きな影ができました。その影の中で、良寛様の愛に守られながら、秋の蝶が遊んでいるかのように飛んでいる情景。良寛像の「影」に着目された点が新鮮です。「遊ぶか」と秋の蝶に問いかけているような表現に、良寛様の慈しみの心に通じるものを感じます。大きな影と小さな秋の蝶の対比が効果的に働いています。

 

特別賞 今日もまた蝉の声聞きペンを持つ

倉敷市立玉島西中学校     藤田 朋華

特別賞 エアコンのノイズかきけすせみの声

倉敷市市立玉島西中学校    白石 悠太

特別賞 思い出を楽しくとろう七五三

高梁市立高梁小学校      湯浅 心結

特別賞 虹色のマントをまとうシャボン玉

大阪府枚方市立小倉小学校   井上 詩月

特別賞 ラムネ瓶滴る水に青い空 

大阪府枚方市立小倉小学校   山本 宇架